「大阪都構想で行政サービスが下がる」役所が明らかにしたそのメカニズム(藤井聡)
京大教授・藤井聡が「大阪都構想」の欺瞞を暴く!
(2)行政文書が明らかにする、行政サービスレベルが下がる項目
では、具体的にどういう行政サービスのレベルが下がるのでしょうか?
まずこの文書で、最初の分かり易い例としてあげられているのが、「市会事務局」。
これは、いわゆる「議会」の事務局ですが、そもそも今は、議会は大阪市議会一つしかないのですが、特別区が4つできると議会が4つも出来ることになるのです。
そうなると、トータルの事務量は(4倍とまで言わずとも)2倍や3倍にも膨れ上がることになります。しかし、職員はほとんど増やさないということになっており、その結果、十分な行政が出来なくなることは必至。この問題について、この文書では次の様に書かれています。
「副首都推進局作成資料によると、市会事務局の現員数36 人に対し、第一区10 人、第二区11 人、第三区11 人、第四区10 人の計42 人となっているが、この人数では業務執行に支障を来す恐れがあると考えられる。」
つまり人事室は、普通に考えれば、これまで36人で対応してきた議会対応をたった10人そこらで対応できる筈はないのではないか、と主張しているわけです。
同じことが「総務部」に関しても起こるだろうと人事室は主張しています。
「副首都推進局作成資料によると、総務局行政部の現員数68 人に対し、第一区18 人、第二区21 人、第三区22 人、第四区19 人の計80 人となっているが、この人数では業務執行に支障を来す恐れがあると考えられる。」
この文書ではこうした分析を様々な行政項目について行い、少なくとも次の各項目の行政執行に「支障」が生じ、その結果、行政せービスが「下落」してしまう危惧が存在するということを警告しています。
・市民局ダイバーシティ推進室
・都市整備局公共建築部
・教育委員会事務局総務部施設整備課
・福祉局生活福祉部保険年金課
・公営住宅
・土地区画整理事業 等
すなわち、「都市整備」や「教育」「福祉」など、大阪市民の暮らしに直結する様々な行政サービスが、都構想をやることで「下落」してしまうことを、この文書は警告しているのです。
(3)大阪市四分割による、専門家不足による行政能力の下落
さらに、この文書では、次の様なことも書かれています。
「ノウハウを持った技術職員(建築、機械、電気職)を、特別区ごとに十分に確保することは困難と考えられる」
これは要するに、今なら、限られた少数の「技術職員」(つまりそれぞれの分野の「専門家」)が大阪市全体の行政の技術的な側面の対応を図っているのですが、役所が4分割されれば、全ての区にそうした技術職員を配置できなくなるということを意味しています。
つまり「うちの区には、建築の専門家が全然足りない」「うちの区には電気の専門家が全然足りない」等という様な事が起きてしまい、その結果、それぞれの区の行政レベルが下落してしまうことが危惧されるわけです。
だから本来なら、大阪市を四分割するなら、それぞれの区に、最低限の専門家を配置するくらいの「人員増強」が必要なのですが……そういう対応は図られず、その結果、行政サービスの劣化は、確実に生じてしまうわけです。
ちなみに、そうした「人員増強」を実際に行えば、各区で十分な専門家を配置することが可能となるでしょうし、同様に、以上に論じたあらゆる「人手不足」を解消することもできるでしょう。しかしそのためには、膨大な「人経費」の増加を覚悟せねばなりません。結果、抜本的な増税でもしない限り、別の行政サービスのために使われていた分を削らないといけなくなります。したがって、収入が増やさないままに四つの独立した特別区を新たにつくれば、行政サービスは劣化はどうやったって下がることになるわけです。